避難所で使用する災害用トイレの種類と適切な選択2025.05.13

地震や豪雨などの大規模自然災害が頻発する日本において、避難所の運営体制強化は急務となっています。

そして「トイレ問題」は避難所生活において最も深刻な問題のひとつです。

東日本大震災や熊本地震など過去の災害では、災害時に下水道などのライフラインが破壊されることで通常のトイレが使用できなくなり、下記のような健康被害や問題が発生しました

 

・脱水症状の増加:トイレの回数を減らすために水分摂取を控えた

・健康被害の発生:排泄我慢による膀胱炎や腎臓病、便秘などの蔓延

・衛生状態の悪化:使用禁止のトイレや、トイレ以外の場所での排泄

・要配慮者への負担増加:高齢者や障がい者、女性などが避難所生活を継続することが困難に

 

国土交通省では、東日本大震災や熊本地震では災害発生から3時間以内にトイレに行きたくなった人が3割以上いたとの調査結果が発表されています。これらの教訓から、災害時のトイレ対策は単なる設備問題ではなく、避難者の命と健康を守るための重要な施策と言えます。

引用:マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン(2021年版/国土交通省)

 

この記事では避難所で使用する災害用トイレの種類と適切な選択について解説していきます。

目次

  • 避難所で使用される災害用トイレの種類
  • 災害用トイレの役割分担
  • まとめ
  • 【資料】避難所のトイレ問題と解決案

避難所で使用される災害用トイレの種類

災害用トイレは大きく3つのタイプに分けられます。それぞれの特徴を知り、状況に応じた最適な選択が重要です。

 

1、携帯トイレ・簡易トイレ

特徴:

・袋に排泄し、凝固剤で処理する最も簡易なタイプ

・既存の便器、もしくは段ボールや樹脂製の簡易便器に被せて使用する

・備蓄しやすく、発災直後から使用可能

 

課題:

・使用済み袋の保管・処理方法を確立する必要がある

・プライバシーの確保が必要

・簡易トイレの場合、耐久性に限界がある

 

2. 仮設トイレ

特徴:

・工事現場などで見られる箱型のトイレ

 

課題:

・設置や運用のために道路確保と配送手配が必要

・排泄物が一定量を超えると回収や汲み取りが必要

・便槽を備えているため段差があるものが多く、高齢者や障がい者が使用しにくい

・到着や設置まで時間がかかる

※東日本大震災において、仮設トイレが避難所に行き渡るまでに4日以上かかったと回答した地方公共団体が全体の66%を占めた。

引用:マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン(2021年版/国土交通省)

 

3. マンホールトイレ(流下型・貯留型)

特徴:

・下水道に接続しているため、回収や汲み取りが不要(流下型)

・下水道が破断しても緊急排水槽に汚物を流すことができる(貯留型)

・通常の水洗トイレに近い使用感

・長期間の使用に適している

・段差が無く、高齢者や障がい者が使用しやすい

 

課題:

・事前の整備が必要

・使用前に下水道の状態を調査する必要がある

災害用トイレの役割分担

このように災害用トイレには様々な種類がありますが、大切なことは時間経過や被害状況に合わせて複数タイプの災害用トイレを組み合わせて、適切なトイレ環境を発災直後から整えることです

過去の災害では発災直後のトイレ環境が十分ではなく、断水や下水道破断などにより既設のトイレを閉鎖しても、避難者が強引に排泄してしまい衛生環境が悪化した事例が報告されています。

先に述べた通り、たとえ災害時でも人はトイレは我慢することができず、尊厳にも関わる重要な問題です。

あらかじめ避難所の想定避難人数を算出し、仮に既設のトイレが使用できなくなっても適切なトイレ環境を維持できるよう準備することが必要になります。

 

下記は国土交通省が定めている時間軸で見た災害用トイレ充足度のイメージです。

発災直後の混乱期はあらかじめ備蓄している携帯トイレや簡易トイレを使用し、マンホールトイレが整備されている避難所であれば準備を始めます。それでもトイレが足りない場合は仮設トイレを調達することが望ましいでしょう。

  • 発災直後(〜24時間):携帯トイレや簡易トイレが中心
  • 初期(12時間〜3日):マンホールトイレの準備と使用
  • 中期(4日〜2週間):マンホールトイレを中心に運用し、必要であれば仮設トイレの手配
  • 長期(2週間〜):持続可能なマンホールトイレや仮設トイレの活用

 

 

引用:マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン(2021年版/国土交通省)

まとめ

このように、避難所のトイレ問題は災害が発生する前から想定・準備しておく必要があります。

必ず来ると言われている「首都直下型地震」や「南海トラフ地震」などの災害に対処するため、総合的なトイレ対策により被災者が健康を損なうことなく、尊厳を保ちながら避難生活を送ることができる環境を目指しましょう。

 

避難所のトイレ問題と解決策についてまとめた資料もございますので、下記からご覧ください。

 

 

【資料】避難所のトイレ問題と解決案

参考資料

  • 内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」
  • 日本下水道協会「マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン」
  • 災害時トイレ研究会「災害時のトイレ問題解決のための調査報告書」